林檎とAI
Apple Intelligenceの「作文ツール」ってどのくらい実用的?
ChatGPTとの連携でテキスト生成がパワーアップ!
2025年7月3日 09:00
「Apple Intelligence(アップル・インテリジェンス)」は、生成AI技術をベースに開発されたApple独自のパーソナルAIシステムです。iPhoneやMacに統合されたAI機能により、テキストやイラストの作成をはじめ、さまざまなタスクを実行できるのが特徴です。
全体的な概要については前回の記事を参照いただくとして、今回はその機能の中でも、テキスト入力の場面で活躍する「作文ツール」の実用性と日本語の取り扱い、ChatGPTとの連携に焦点を当てて解説します。
文章の入力ミスをチェックしよう
「作文ツール」は、文章の校正や書き直しに加え、文体の変更や要約、新たな文章の提案などができるAI機能です。テキストを扱うほとんどのiPhoneアプリで利用でき、「メモ」や「メール」といった標準アプリをはじめ、「Pages」や「Keynote」、Webブラウザーの「Safari」などでも活用できます。
たとえば、「メモ」アプリで文章の下書きを作成している際に[校正]を使えば、単語の入力ミスや日本語の不自然な言い回しをチェックできます。修正提案には理由も表示されるため、それを参考にしながら提案を採用するか、元の文を残すかを選べます。
また、文章の表現にしっくりこない部分がある場合は、[書き直し]を選ぶことで別の文体を提案してもらうことができます。提案内容に納得できない場合でも、タップ操作で複数の書き換え候補を表示させることができ、原文との比較や元に戻す操作も簡単です。
さらに、「丁寧な表現で」「小学生にもわかる言い回しで」など、希望する書き直しスタイルを直接指示することも可能です。これらの機能を活用すれば、まず伝えたい要点だけをざっくり入力し、作文ツールを使って目的に合った表現に整えてもらうといった使い方もできます。
作文ツールの校正機能がどの程度実用的かを確認してみたところ、一般的な用語の入力ミスや漢数字の「一」と音引き記号「ー」の違いといった誤字は、比較的正確に検出できました。一方で、日本語によく見られる「交渉」と「考証」のような同音異義語や表記揺れに対しては、やや検出が苦手な傾向が見受けられます。
また、校正を複数回行うと検出される語句が変化することもありました。筆者自身が編集者という職業柄、やや厳しめの評価になっているかもしれませんが、現時点での作文ツールの校正機能は欧文におけるスペルチェック機能の延長といった印象です。
とはいえ、今後のアップデートによって精度の向上が期待できますし、特に長文の作成が苦手な方にとっては非常に心強いサポート機能であることは間違いありません。
シーンに合わせて言葉づかいを変える
作文ツールには、書き直し機能のバリエーションとして、元のテキストを[フレンドリー][プロフェッショナル][簡潔]の3つの文体に変換する機能があります。たとえば、家族や友人といった気の置けない相手に送るメールやメッセージでは、[フレンドリー]を選ぶのが適しています。
一方で、ビジネスメールやレポートの作成時には、[プロフェッショナル]を選ぶことで丁寧で誤解のないスマートな表現に修正されます。文章が長すぎたり、内容が読みづらくなっている場合には、[簡潔]を使うことで要点を押さえたわかりやすい文体に整えることができます。
ただし、いずれの文体に変更する場合も、細かなニュアンスが変化したり、必要な情報が抜けてしまうことがあります。特にビジネス用途では、書き直された文章を確認し、意図が正確に伝わるかを自分でチェックすることが重要です。
さらに、テキストの内容を[要約][要点][リスト][表]といった4つのスタイルで再構成することも可能です。[要約]は文章全体の内容を簡潔にまとめる機能で、[要点]は重要な情報をキーワードと簡単な説明文で整理します。[リスト]では内容を箇条書きに、[表]では表形式で視覚的に整理できます。
これらのスタイル変換は、自分が書いたテキストだけでなく、業務で読まなければならない大量の資料やWebサイトの内容を効率よく整理する際にも便利です。作文ツールは多くのアプリで利用できるため、必要なテキストを選択して要約やリスト形式に変換してみましょう。
スタイル変更後の内容は、[コピー]して他のアプリで活用したり、[置き換え]で元の文章を更新したりできます。また、[共有]を選べば、「メール」や「メッセージ」などで簡単に情報を送信することも可能です。
ChatGPTを使ってゼロから文章を作成する
これまで紹介してきたのは、既存のテキストを書き直したり、スタイルを変更したりする機能でした。しかし、作文ツールには、もともとの文章がなくてもゼロから新たに文章を「作文」する機能も備わっています。
この作文機能を利用するには、Apple Intelligenceを有効にするだけでなく、OpenAIの生成AIサービス「ChatGPT」との連携が必要です。利用する際は、事前に「設定」アプリからChatGPT拡張を有効化しておきましょう。一度登録しておけば、ChatGPTのWebサイトにアクセスしたり、専用アプリを起動したりせずに、さまざまなアプリから作文ツールの機能をフル活用できます。
なお、ChatGPT拡張は、OpenAIの無料アカウントでも登録可能で、有料のChatGPT Plusアカウントでも利用可能です。いずれの場合もテキストの生成に「GPT-4o」モデルが使われていると考えられ、文章の質には大きな違いは感じられませんでした。また、この拡張機能によってテキストだけでなくイラストの生成にも対応可能ですが、こちらは別の回で詳しく解説します。
使い方はとても簡単で、ChatGPT拡張を設定すると、作文ツールのシートに[作文]という項目が追加されます。このボタンをタップし、「ChatGPTで作文」欄に書きたい内容を入力すれば、完成度の高い文章がすぐに生成されます。文字数や文体などのリクエストも可能で、意図に合った文章を作成するには、いわゆる「プロンプトエンジニアリング」のテクニックも効果的です。
ただし、一度の指示で完璧な文章が得られるとは限りません。その場合は、生成をキャンセルして改めて詳細な指示を入力するか、ChatGPTに対して微調整を依頼することもできます。また、ChatGPT側から強調ポイントなどの提案が返されることもあり、これらのアシスト機能を活用することで、より完成度の高い文章を仕上げることが可能です。
Apple Intelligenceについては、他社の生成AIと比べて性能面で劣る、という一部の意見もありますが、少なくともテキスト生成においては、Apple独自の基盤モデルに加えてChatGPTの機能を活用できる点が大きな強みです。むしろ、システムとの統合により、どのアプリからでも共通の操作で「作文ツール」を使える利便性の方が際立っていると言えるでしょう。
次回は、Apple Intelligenceのイラスト生成機能「Image Playground」の活用方法について解説します。
著者プロフィール:栗原亮(Arkhē)
編集者/ライター、LinkedInラーニング講師。コンテンツ制作会社アルケー(Arkhē)代表。1975年東京生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程(哲学)修了後、出版社勤務を経て主にApple製品に関する記事を各メディアで執筆。デジタル技術で暮らしや仕事、学びをアップデートするために、教育・医療・エンタープライズ・エンターテインメントなど各分野のAI&ICT動向を領域横断的に取材している。
・著者Webサイト:https://arkhe.ltd